Web 鼎談:コンピュータ・サイエンスは21世紀の基礎科学になるか?
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キーフレーズから見た鼎談
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鼎談におけるそれぞれの発言のキーフレーズを集めてみました.
鼎談のあらすじと合わせて読まれると,
議論の流れがなんとなくわかって頂けるのではないでしょうか.
対応する総集編へは各月,各節ごとにいけます.
詳しいところが見たい場合には参照してください.
以下では,
[W]=渡辺,[N]=根上,[M]=松井です.
- 鼎談のはじまりはじまり
- [W]予言します.
21世紀には新しい基礎科学がコンピュータ・サイエンスの中から生まれる
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- [W]この予言について鼎談していきましょう.
- コンピュータ・サイエンスって?
- [W]コンピュータ・サイエンスは大きく誤解されてます.
- [N]根上氏登場!確かに,世間のCSの捉え方はいろいろですね.
- [M]松井氏登場!CSは読み書きそろばんじゃないですよね.
- [W]CS学科は自動車教習所ではないのです!
- [W]CSはコンピュータやソフトを作るための学問です.
- そもそも基礎科学って何だろう?
- [W]従来,基礎科学と呼ばれていたものは?
- [M]基礎科学をカリキュラムから見てみませんか.
- [N]しかし,基礎科学≠基礎教育にも注意が必要ですよ.
- [N]一般学生向けのCSとは?
- カリキュラムから見たCS
- [W]一般教養としてCSを教える!それはリテラシーでもプログラミングでもない.
- [N]リテラシーでもプログラミングでもない.では,何を教えるの?
- [W]それはCSの心を教えるのです :-)
- [N]CSの中心は「計算」ですね.
- [W]そうです.そしてすべては「計算」なのです!
- 本当にそれが基礎科学なの?
- [N]計算のどこが基礎科学なの?(根上氏の厳しい突っ込み始まる)
- [W]「計算」が森羅万象を理解する元になっているからです.
- [M]基礎科学として成り立つには,CSの「精神」について共通した認識が必要なのでは.
- [W]だからこそ「計算」が核なのです!
- [M]精神論より具体的な話から進めませんか?
- CSの一例:アルゴリズムの研究
- [W]まずは,アルゴリズムの話から始めましょう.
- [N]では素数判定アルゴリズムの例で.どこに基礎たるCSがあるのかな?
- [W]その例では単純すぎます.もっと高級なアルゴリズムはどうですか?
- [W]数学の「応用」ではありません.アルゴリズムのため「数学」なのです.
- [M]でも「応用を目指した数学」と見てもいいのでは?
- アルゴリズムの研究も立派な「純粋数学」ですよ!?
- [N]「純粋数学の雰囲気」というのは何でしょうね.
- [N]数学とは違ったCS特有の原理があるはずです.
- [M]動機付けが従来の数学(基礎科学)と違うのでは?
- 「計算」を対象としているところがCSの新しさ
- [W]動機の差だけでは,「新しい」というには弱いと思います.
- [N]「計算」を議論するのならば「効率よくできないか」の問いが本質なのでは?
- [M]「どのくらい効率良くできないか?」は重要です.でも世間受けが悪いですね.
- [N]基礎科学が求めるものは「表現」であって「主張」ではないのです.
- *
根上氏のこの発言の裏には,
「未知の真理の発見」という従来型のの基礎科学の考え方があります.
- 「計算」を解明することの難しさ
- [W]でも計算の限界については未解決なことばかりです.
真の評価基準に使うなんてまだまだ.
- [W]「計算」の解析が難しいのは,それが人工物だからなのです.
- [N]たしかに 10 進法で計算するのは人間の都合ですよね.
- [N]でも数学的存在を「自然物」と形容するのには反対です.
それは「自然」を超えた存在だと思います.
- [W]いえ,自然物といったのは「数学的存在」ではなく「数学の対象」です.
- [N]「計算=人工物」について,もっと具体的に話をしませんか?
- 計算=人工物,そこに計算の難しさがある
- [W]自然は素直です.一方,「何でもあり」の人工物は捉えどころがないのです.
- [N]「何でもあり」の世界は数学の方です.
- [W]数学は本当に「何でもあり」でしょうか?
やはり分野ごとの土俵がありませんか?
- 「計算」には構造がない!?
- [N]構造がない!?う〜ん.それなら,CSは場当たり的な学問でしかないのでは?
- [W]ある意味ではそうなのです.
でも,だからといって基礎科学には値しない訳ではないと思うのです.
- 本当に「計算」には構造がないの??
- [N]「構造がない」なんてありえない.見えないだけですよ.根上氏雄弁に語る.
- [M]確かに,CSは幾何学などと比べて歴史が短く,
直観を論証する方法を確立できてないのかもしれませんね.
- 計算困難性は作図不可能性に通じるのでは?
- [W]それでも「構造が見えにくい」と言いたいのです.
- [N]構造がすぐ見えるような定理は,数学でもプロは扱いませんよ.
- [N]フェルマーの定理は悪い例ですよ.例としては作図なんかがいんじゃないの.
- [W]では比喩的な例として,
「コンパスを 17 回だけ使って正 12 角形が書けるか?」を考えましょう.
- [M]作図の不可能性の例はいいですね.
重要な話に着実に近づきつつある気がします.
- 作図の例をもっと詳しくみてみると
- [N]むしろアルゴリズムとかいったもので表現したほうが
見えてくる構造があるのでは?
- [N]渡辺さんの作図の話はいいですが,
それは計算の困難性を議論しているのですか?
- [W]そうです.単なる不可能性より困難性の方がCSらしい話題だと思います.
もちろん,それは一例ですが.
- [N]困難性は計算自体の困難性?それとも計算困難性の証明の困難性?
- [W]困難=計算の困難性,難しい=計算困難性の証明の困難性,と使い分けてます.
- [N]正多角形の作図の困難性はどこからくるの?一般論が展開できるのでは?
- [W]作図可能性と計算の困難さの話の対応を整理してみましょう.
- 「困難性」は単なる手数の多少だけを問題なのか?
- [N]「困難性」は単に手数の多少だけを問題しているのですか?
それだけでは魅力がないのでは?
- *これは衝撃的な発言でした.
我々はまさに 10 手か 11 手かの差を見極めようと研究してきたのですから.
- [W]つまるところは手数の差の評価です.
計算の真の価値を示すには,手数の評価が重要になるのです.
- [M]根上さんの発言には私もショックです.
「たかが手数の評価なんてくだらない」と思う人は多いのかなぁ.
- [N]そう言われないためにも,少し深く答えてほしいのだけれどな.
- CSの一例のアルゴリズムの研究の一例:回路計算量の研究例
- [W]では,ちょっと長くなりますが本当の研究の話をしてみますね.
- [W]段数が制限された回路の回路計算量の解析の話をします.
- [N]すこしわかったような気がしてきました.
でも 17 回と 18 回の間には本質的な差はなさそうですね.
- [M]根上さんは 17 回と 18 回で特徴付けに使う道具が,
まったく違うような例が欲しかったのですか?
- CSの一例:計算論的学習理論
- [W]ちょっと視点を変えて「計算論的学習理論」の話をしましょう.
- [N]ちょっと出張します.
留守の間に,
個別事例をいろいろと検討して,
CSに共通する精神や世界観を抽出しておいてね!
- [W]同じ学習アルゴリズムの解析でも物理学的アプローチはだいぶ色が違う.
物理は何でも一応,数式で表そうとする.
- [W]CS的アプローチでは
「アドバーサリー(敵者)がノイズを出す」というように最悪を考える.
- CS vs. 理論物理学
- [M]物理的 vs. CS的の違いをもう少し詳しく説明してください.
- [W]物理は式の変形で結果を導出する vs. CSは論理から結果を導き出す
- [W]CSの使う道具.
それは論理です.物理が「式の計算」ならば,CSは「論理の暗算」です.
- [M]どんな分野でもまともな研究者ならば論理的に議論しているのでは?
- [W]CSでは直観が働かない分だけ,議論に厳密性が要求されるのです.
- [W]確かに物理とCSとでは使う道具が違います.
でもそれは対象の違いから来ているのではないでしょうか?
- [N]
根上復活!ちょっと待って.
その「数式」と「論理」の話,真の数学者には納得できないぞ!
- 人工物 vs. 自然物
- [M]CSは数学的推論を長々と使うが数学でもない.
むしろ工学のようなものである.(ファインマン)
- [W]「人工物」は組合せにより何でも作れるので自由度が非常に高い.
だから議論も慎重にしなければならなくなるのです.
- [W]CSは土俵が広い.だから何でも守備範囲入るのです.
CS的研究が可能なのです.
- [N]しょうがないなぁ.
「構造がない」のいってんばりでは基礎科学の兆しはみえないですよ.
- [M]「構造がない」というより,
「CSは構造や前提にとらわれない」といいたいのですよね.
- [M]基礎科学たるもの
「学ぶ者をどこに連れて行ってくれるのか?」を提示してくれなくては.
- 理論計算機科学以外の観点からCSを語る
- [N]どうなっていけば
CSが立派な基礎科学に昇格(?)するのかを考えましょう.
- [N]理論計算機科学からコンピュータへと目を向けてみませんか?
- [N]実際に目の前にあるコンピュータやソフトを見つめてみましょうよ.
- [W]「前提なし」の話をTVゲームの例でいうと.
- [N]そのルールだってなんでもいいわけではないですよね.
- [W]ルールだったら何でも O.K. です.
唯一の制約は記号で書き表すことができることです.
- 「コンピュータにのる=記号で書ける」の構図
- [N]記号で書けるルールのよさとか必要性とかを表現してほしいです.
- [M]「コンピュータにのる=記号で書ける」の話から切りこみませんか?
- [N]普通の人間の感覚では左辺と右辺の間には,かなり距離があると思います.
- [W]う〜ん.どのようなことを説明したらいいのでしょう?
- [N]概念的にわかるのと実感するのでは違うのですよ.
- CSの世界は 0 と 1 からなる世界?
- [W]この際「記号列(機械語)で書ける」の意味をはっきりさせておきましょう.
本当に単純な命令だけでいいのです.
- [N]CSでは 0 と 1 の世界が「すべて」と主張するのですか?そこにもギャップがあるな.
- [M]単に 0, 1 の世界だけでなく,CSの世界を俯瞰する説明が欲しいですね.
- [N]そうです.階層構造を考えれば,...と説明できるでしょ.
- [W]私がさぼっていた説明をして下さってありがとうございます.
- ルールで書き表されている世界 vs ルールでは書けない世界
- [W]CSはルールですべて書ける世界を扱ってます.
では物理はどうでしょう?
- [N]当然,森羅万象をルール化するのは不可能ですよ.
- [W]そこが違うのです!CSの扱う小宇宙は完全ルール化されているのです.
- [N]数学もある意味ではそうです.
- [W]んん?数学ではルールがすべてではないのでは?
数学的真理が必ずしも記号で表せるとは限らないし.
- [N]はい.ルール上だけの数学は「矮小化された」数学です.
- [N]数学でも物理でも真理に即してルールを作る段階があるのです.
CSだって同じでしょ.どんなルールでもいいの?
- [M]CSではルールを決めて探究すること自体が
目的化しているのですか?
- 「実在 vs 探求方法」の対立構造
- [W]CSでは物理のように真の世界が一つではないのです.
- [N]CSにおいても真の世界は一つだと思います.それが「究極の仮想空間」です.
- [N]対立構造がないと「CSは数学を矮小化したようなもの」になってしまいますよ.
- [W]探求する対象の自体は確かに浅いです.
だからと言ってCS自体が「数学を矮小化したもの」とはならないのでは.
- CSをとらえる二つの選択肢
- [N]う〜む.CSに対する二つの見方があるようです.
1.究極の仮想空間の探求,2.探求方法の探求
- [W]選択肢2でしょう.
- [W]解釈も含めて法をデータベース化する研究など,
従来「技術」と思われていたものを「科学」するのがCSです.
- [N]仮想弁護士ということですね.
- [M]法律の例えは危ないですよ.
- 選択肢2「探求方法の研究」の解釈をめぐって
- [N]選択肢2「探求方法自身」とはメタな研究ということです.
アルゴリズムの考案ではなく,考案方法自体の研究です.
- [M]根上さんの「「メタ」な研究」が渡辺さんの「探求方法の研究」に対応するのですか?
- [W]はい(←誤解),各ドメインサイエンスに共通するメソドロジーの研究です.
- [N]でもそれは単なる方法論の研究なのでは?
- [W]もちろん「公式の使い方」のようなものではありません.
公式を導き出すような研究です.
- [N]探求方法が探求する対象はどこへいったのですか?CSの中,外?
- [W]記号化してしまえば中ですね.記号化の前段階もありますが...
- [N]探求方法の研究となると,
いろいろな探求方法を列挙して比較検討するぐらいしか思いつきません.
- どうも論点がずれているような気が...
- [N]選択肢2破れたり!
混乱を生んだ原因は選択肢2を選んだからですよ.
- [W]メタな研究はだめなのですか?
アルゴリズムの研究のどこが悪いのでしょうか?
- [N]だめなのではなくて,
アルゴリズムの研究などは,
私流の「メタな研究」になっていないのです.
- [N]そもそもオブジェクト(対象)とメソッド(方法)を
絶対的に区分けすることにも意味がありません.
- [W]オブジェクト(対象)とメソッド(方法)は相対的なものだ,というわけですね.
- [W]それは各ドメインサイエンスと
それに共通するメソドロジーの研究の関係とは違った関係ですね.
- [N]メソッド自身を研究することを「メソドロジー」と言っているのですか?
- [W]はいそうです.動物生態学者の例で説明してみましょう.
- [N]その見方は O.K. です.
ただ,計算機科学者は,そのように様々な分野に気を配っているのですか?
- [N]メタ,メタでない,の関係も相対的なものです.
また時間とともに変ります.
- [W]はい,よくわかります.
- そして結局,選択肢1「究極の仮想空間の研究」へ
- [W]
「探索方法の研究」の解釈で食い違いがあったのですね.
「根上:探求方法のメタな研究」と
「渡辺:分野から独立な汎用な探求方法の研究」
- [N]既存分野から独立なメソドロジーの研究がCSだといいたいのですね.
- [W]はい,汎用性がポイントです.
- [M]私は選択肢1がいいと思います.
「究極の仮想空間」は,この世界を探求するための方法になるのでは?
- [N]しかも,渡辺さんの言っていることは「究極の仮想空間」の世界観に吸収可能です.
- [W]「ルールに基づいた世界」という面をとらえればそうです.
仮想世界だけではCSらしさが薄れる危険がありますが.
- [N]ですから,「究極の仮想空間」を対象とする科学という見方で議論しましょうよ.
- *ここで渡辺出張.
- 強い社会的要請,それがCSの特徴!?
- [N]CSでの「こんなことをしたい」って何ナノ?
それが「究極の仮想空間」へとつながるのでは.
- [M]コンピュータのの進展の速さも考慮しておかないと危ないですよ.
- [M]企業で製品開発に携っている研究者が
「究極のモデル空間の解明を夢見て研究している」とは思えない.
- [N]でも基礎科学の話ですからね.
- [M]CSでは,従来の基礎科学と違って「実利的な社会的要請」が抜き難く絡んでくると思います.
- [N]それは他の基礎科学でも同じなのでは?とくに発展段階では.
- [M]でもCSの世界は人間が作り出すものです.
そのプロセスで現実の要請が入り込むと思うのです.
- [N]現状ではそうかもしれませんが,未来はどうでしょう?
- [N]究極の仮想空間は人間が作り出す世界ではありません.
人間とともに存在していますが断片しか目の前には現れません.
- [M]はい.作り出すというより,
仮想空間から切り出すといった方がよかったです.
- [N]なるほど.切り出すプロセスで社会的要請が入ってくるというのですね.
- [M]そのときに「社会要請」を「経済原理」に矮小化してしまう力が,
とくにCSの場合には強く働くのでは.
- CSに対する社会的要請と学問の独立性
- [N]実際にCSがどんな社会的要請を受けているのですかね?
- [W]復活!
コンピュータの進化のスピードは異常です.
CSの研究をゆがめる/誤解される危険性もあります.
- [W]一方,
CSが社会的要請から完全に分離してしてしまったら,
CSではなくなるかもしれません.
- [W]探求方法の研究という立場をとれば,
「社会の要請」と「科学としての独立性」の矛盾にも悩まなくてすむのです.
- [M]探求法自体は,
複数の「個々の仮想世界」にまたがるような(汎用な)ものが求められるのですね.
- [W]はいそうです.汎用性も重要なキーワードですね.
- CSに対する根上氏の4つの疑問
- [N]それならば,
究極の仮想空間の研究の見方でも言えます.
社会的要請は,個々の仮想空間を「切り出す」部分で影響してくるわけです.
- [N]渡辺さんの説明を受け入れるとして,次のような疑問4つが出てきます.
CSについての4つの疑問
疑問1:
何でコンピュータ・サイエンスなの?
探求科学でもいいではないか.
疑問2:
計算とかルールとかいう限定的で微視的なキーワードでいろいろな分野が説明できるのか?
疑問3:
計算機科学者は本質的にいろいろな分野のことに感心があるのですか?
疑問4:
現存のCSは,
いろいろな研究分野に適用可能な研究方法を提供してくれているのでしょうか?
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- [W]疑問2の答え:Yes
- [W]疑問4の答え:何ともいえない.少しずつ影響力は増している
- [N]疑問2は No なのでは?
「計算」や「ルール」についての研究が,
他の様々な研究分野に適用可能なのでしょうか?
- [N]そこで,
「計算」にとって代るキーワードとして
「究極の仮想空間」を持ち出したのです.
- [W]いまひとつよくわからない...
取りあえず疑問1への答え:No
- [W]疑問1に関連して:
「コンピュータ」が使われるのはそれなりに意味があると思います.
- [N]今までのCSという意味ではよいでしょう.
でも,探求方法の研究という解釈にはあいません.
- [M]疑問2の答えは明解です.
- 根上師,ついに「究極の仮想空間」について語る!
- [N]「究極の仮想空間」のヴィジョンを与えます.
ヴィジョンその1:自然科学の「モデル空間」について
- [N]ヴィジョンその3:究極の仮想空間と既存学問分野の関係
- [N]CSが進化していくと,
何かの構造が見えてきて,その構造を研究対象とするようになってくる.
そのときに対象となるのが「究極の仮想空間」なわけです.
- [W]話としてはおもしろいのですが,
CSをそこまで高める必要があるでしょうか?
- [M]現在のCSとギャップが大きい.
その手前の段階でも,「基礎科学」性を十分議論することができるのでは?
- [N]いいですよ.それなら近未来的なところに限って語りましょう.そろそろ最終決戦の段階です.
- [M]最後に疑問3について聞きたいですね.
- 世界に羽ばたくCS!渡辺が熱く語る
- [W]はい,
計算機科学者はいろいろな分野のことに関心があります.
- [W]CSが進出している分野:暗号,言語学
- [W]CSが進出するかもしれない分野:経済学,社会学
- [N]疑問3の答えにはなっていません.
聞きたいのは,本質的に他の分野と関わりがある必要があるのか?という点です.
- [W]そうですね,失礼しました.
でも,「計算」の万能性について言いたかったものですから.
- [M]他の分野との関わりが強すぎるのも問題ではないですか?
分野としてのまとまりがなくなるのでは.
6
- [W]そうですね.
求心力を持つためには「科学」の部分が必要なのですかね.
- [N]CSは各分野の寄り合い所帯になりかねないですね.
各分野に左右されない一般的な枠組みで問題を考える人々の集団でないと...
- [M]かといって他分野に無関心だとよい問題が得られないのでは?
- [N]その反対!
抽象的なところで議論しているからこそ,質のよい問題を見出すことができるのです.
一流の研究者ならば.
- [W]その意見には同感です.
- [M]私は工学的なのだなぁ.
- [N]やはり寄り合い所帯の上に立つ人々がいなくては.
- [M]数学はその対極の「仲よしクラブ」でしょうか.
- [M]CSは「寄り合い所帯」でありつづけるのが本質なのでは?
- [N]そうするとCSの対象をじっーと見つめて,
すばらしいことを発見するような天才は期待できないですよ.
- 根上氏の野望 vs 渡辺の大計画
- [N]そこで私の野望です.
CSを数学に取り込むのです.
結局,同じようなことをしていると思うのです.
- [W]それに対し,私は「数学二文化(二分化)計画」をぶち上げましょう.
その一つにならCSが入ってもいいでしょう.
数学二分化計画
数学には実は二つの文化が内在している.
自然科学の基礎としての数学と,
人工物に対する数学である.
ただし,
最近までは自然科学の基礎としての数学しか,
まともな数学として認められなかった.
しかし人間の進化により,
後者の数学もまともな数学に育ちつつある.
同じ数学といっても,
この両者は文化的にかなり違ったものを持っている.
この際,
その違いを明確にするために,
数学を二つに割ることを提案する.
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- [N]なるほどね.
でも,それは間違った数学観に基づくものですよ.
- [M]いま話しているのは「基礎科学としてのCS」ですよね.
- [N]もちろん.
「究極の仮想空間を対象とする基礎科学」といった場合には,
数学からはみ出る部分もありえますが.
- [W]そのはみ出る部分は何ですか?気になります.
- 松井氏のCS
- [N]その前に松井さんのCSのイメージを聞きましょう.
- [M]データを取得し,操作し,活用するまでの
全体を捉えるための学問が欲しい,
それがCS(の一部)であればなぁ,と思います.
- [N]でも,基礎科学の部分は「数学」ということでは,
同意が得られたのでは?
- [N]究極の仮想空間の研究について,少し述べましょう.
- 最終章へ向けて
- [N]まとめに入りましょう.
- [W]「CSの基礎科学的な部分は数学」に落ち着きそうですが,
最後にもう一度,問いかけさせてください.
- [N]CSには,単に数学的な部分だけではなく,
不可分な何かがあるということですね.
その数学からはみ出た部分が何かをいろいろと議論してきたのかな.
- [N]また,基礎科学は人間の世界を認識する機能に対応するのかもしれません.
数学は人間の数理的能力に,
自然科学なら人間の法則を発見する能力に.
すると,CSは人間の手続き的処理能力に対応しているのでしょうか.
- [W]数学や物理が理解する能力に対応し,
CSは操作という能動的な能力に対応するとも言えますよね.
- [N]その手続き的処理に対応する部分が,
その枠組みを越えて動き出すと,
本当に新しい基礎科学が出てくのではないでしょうか?
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