ところで,私は,以前,皆さんの指摘に応じて,計算機科学を近未来的なところに限定して議論することにしていたのでした.だから,渡辺さんが聞きたがってる数学からはみ出た部分については,あまり語りたくありません.でも,渡辺さんが是非にというので,ちょっとだけ述べます. たとえば,計算機がもっと発達して,計算機科学も十分に発達していくと,計算機によって切り出される「究極の仮想空間」の断面としての仮想空間では,私たちの想像を超えたマクロな現象が現れるのではないかと思っています.仮に,その仮想空間を成立させるルールが明示的に与えられているとはいえ,その現象をシンタクティック(でしたっけ?)に理解することが実質的には不可能で,与えられたルールとは別の原理を探求して,その現象を理解したほうがよいとうことが起こるのではないでしょうか. よく「これこれは,計算不可能である」といった定理を耳にします.角の三等分は原理的にできないというとは違って,計算でそれを決定しようとしても,極めて困難で,事実上決定不可能であるといった意味の定理だと思います. たとえば,かなり専門的になってしまいますが,「任意のグラフの族に対して,極小マイナーは有限個である」という定理があります.この3人が知っている例だと(読者のみなさん,すいません),非平面的グラフの族の極小マイナーはK_5とK_{3,3}の2個だけです.RobertsonとSeymourのグラフ・マイナーという理論を用いると,これと似た現象が一般的に成立するという大定理が証明できます.その一方で,「その有限個の極小マイナーは,一般には計算不可能である」という定理も知られています.(確か,Mike Fellowsの定理だったと思います.) この2つの定理が意味するところは,計算という観点だけでは理解できないが,正しいことがわかる現象が存在するということです.となれば,その現象は,計算や与えられたルールとは別の原理によって,理解されているわけです. この例は数学の例なので,数学からはみ出す部分の例になっていませんが,究極の仮想空間における森羅万象の中には,明示的なルールの積み上げでは事実上到達不可能で,他の原理や法則の存在を明らかにすることで理解できるマクロな現象があるのではないかと思います. そういう現象を探求する研究は,自然科学の探求と似ているところがあって,純粋な数学とは異なる精神で遂行されるものです. まあ,映画「マトリクス」の仮想世界をイメージして,この話を考えると,理解できるかもしれません.反対に,単なる空想的な夢物語を語っていると誤解されてしまうかもしれませんが...
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